連作小説『電脳幻想郷・長岡』こみつクリエイティブ（Claude3.5使用）

タイトル：『電脳幻想郷・長岡』第一話「バーチャルの扉が開くとき」

長岡市の夜景が、高層マンションの一室の窓に映り込んでいた。その部屋で、小柄な金髪の少女が眼鏡を外し、疲れた目をこすっていた。彼女の名はリリア・ペトロワ。21歳にして、日本有数のゲーム会社「テックドリーム」の天才プログラマーだ。

「はぁ…やっと完成したわ」

リリアは溜息をつきながら、デスクに置かれた最新型VRヘッドセットを見つめた。そこには「電脳幻想郷・長岡 β版」と書かれたラベルが貼られている。これは彼女が2年の歳月をかけて開発してきた革新的なVRゲームのプロトタイプだった。

リリアは立ち上がり、窓際に歩み寄った。窓ガラスに映る自分の姿を見つめる。小柄で華奢な体つき、金髪に碧眼という外見は、彼女がロシア人の父と日本人の母を持つハーフであることを如実に物語っていた。

生まれも育ちも日本だが、リリアは常に自分のアイデンティティに悩まされてきた。日本社会では「外国人」として扱われ、かといってロシア語もろくに話せない。そんな彼女にとって、プログラミングこそが自己表現の唯一の手段だった。

「私の居場所は、きっとこの仮想世界の中にあるはず…」

リリアは呟きながら、再びデスクに戻った。彼女は深呼吸をし、おもむろにVRヘッドセットを装着した。

画面が点滅し、リリアの意識は「電脳幻想郷・長岡」の世界へと吸い込まれていく。

目の前に広がったのは、彼女の故郷・長岡市の風景だった。しかし、それは現実の長岡とは明らかに異なっていた。

街並みは江戸時代風の建築物と未来的な建造物が不思議と調和して立ち並び、空には巨大な歯車が浮かんでいる。道行く人々は着物姿でありながら、ホログラム端末を操作している。そして、遠くには雪をまとった巨大な山々が聳え立っていた。

これこそが、リリアが創り上げた「電脳幻想郷・長岡」の世界だった。

現実の長岡市を基盤としながら、日本の伝統とハイテクノロジー、そしてリリアのルーツであるロシアの神秘主義的要素を融合させた独特の世界観。それは、リリア自身のアイデンティティの投影でもあった。

リリアはゆっくりと歩き始めた。通りを歩く人々は彼女に気づくと、まるで旧知の仲のように親しげに挨拶をしてくる。ここでは、リリアは完全に溶け込んでいた。外見を気にする必要もなく、誰もが彼女を当たり前のように受け入れてくれる。

「やっぱり、ここが私の居場所ね」

リリアは満足げに微笑んだ。しかし、その表情はすぐに真剣なものに変わった。彼女には、この世界で果たすべき重要な使命があったのだ。

「電脳幻想郷・長岡」は単なるゲームではない。それは、現実世界と仮想世界の境界を曖昧にし、人々の意識を自由に行き来させることを可能にする画期的なシステムだった。リリアの目的は、このシステムを通じて、現実世界では居場所を見出せない人々に新たな可能性を提供することだった。

しかし、そこには大きな危険も潜んでいた。意識の操作は、使い方を誤れば人々を現実から切り離し、仮想世界に閉じ込めてしまう可能性があったのだ。

リリアは歩みを止め、遠くに見える巨大な歯車を見上げた。その歯車は、この世界の中枢システムを象徴するものだった。

「私の使命は、この世界と現実世界のバランスを保つこと。決して、誰かを閉じ込めたりしないように…」

彼女は固く決意を胸に刻んだ。しかし、その瞬間、異変が起きた。

突如、空に浮かぶ歯車が不規則に回転し始めたのだ。街を歩く人々のホログラム端末が一斉にエラーを表示し、建物の一部が歪み始める。

「何が起きているの!?」

リリアは慌ててシステム診断を開始しようとしたが、彼女の操作権限が何者かによってブロックされていた。

その時、遠くの山々から不気味な霧が立ち昇り始めた。霧は瞬く間に街全体を覆い、そこから得体の知れない影が現れ始める。

人々は混乱し、逃げ惑い始めた。リリアは必死でログアウトを試みるが、システムが応答しない。

「まさか、誰かが外部からハッキングを…!?」

リリアの頭の中で様々な可能性が駆け巡る。しかし、考えている暇はなかった。彼女は急いで街の中央にある巨大な神社へと向かった。そこには、このシステムのバックアップ機能が隠されているはずだった。

神社に辿り着いたリリアは、境内に佇む巨大な鳥居を見上げた。その鳥居には、日本の神道とロシアの民間信仰が融合したような不思議な文様が刻まれている。

リリアは深く息を吸い、鳥居に手を触れた。すると、鳥居が淡く光り、リリアの前に半透明のホログラム画面が現れた。

「これで、外部からの侵入を防ぎ、ユーザーの意識を安全に現実世界に戻せるはず…」

リリアは素早くコマンドを入力し始めた。しかし、その時だった。

「そこまでだ、リリア・ペトロワ」

低く落ち着いた男性の声が、彼女の背後から聞こえてきた。リリアが振り返ると、そこには彼女の同僚である山田太郎の姿があった。

「山田さん…? どうして、あなたがここに…?」

リリアは困惑の表情を浮かべた。山田太郎。テックドリームでリリアの直属の上司であり、「電脳幻想郷・長岡」プロジェクトのマネージャーだ。普段は温厚で頼りになる存在だったが、今の彼の目には冷たい光が宿っていた。

「残念だがな、リリア。お前のシステムは、もはや我々の手中にある」

山田の声には勝ち誇るような響きがあった。

「我々…? いったい、何のことですか?」

リリアは動揺を隠せずにいた。山田は薄く笑みを浮かべ、ゆっくりとリリアに近づいてきた。

「お前は天才だ、リリア。だがまだ若すぎる。この素晴らしいシステムの本当の価値が分かっていない」

山田の目は、狂気じみた輝きを放っていた。

「このシステムがあれば、人々の意識を完全にコントロールできるんだ。現実世界の苦しみから解放し、永遠の幸福をもたらすことができる。我々は、新たな神となれるのだ!」

リリアは息を飲んだ。山田の言葉の意味を理解し、恐怖が背筋を走った。

「そんなこと…絶対に許しません!」

リリアは叫び、急いでバックアップシステムの起動を試みた。しかし、山田の動きの方が一瞬早かった。

彼は不意にリリアの腕を掴み、強引に引き寄せた。そして、リリアの目の前に見慣れないデバイスを突きつけた。

「さようなら、リリア。お前の意識は、永遠にこの世界の中でさまようことになるだろう」

山田がデバイスのスイッチを入れた瞬間、激しい電流がリリアの体を貫いた。

「きゃあああっ!」

リリアの意識が遠のいていく。最後に彼女の脳裏に浮かんだのは、
遠い日の記憶。ロシア人の父が語ってくれた、古い民話の一節だった。

「闇に飲み込まれそうになったとき、光を信じ続けることだ…」

そして、リリアの意識は完全に闇に沈んでいった。

…

気がつくと、リリアは見知らぬ場所に立っていた。

周囲を見回すと、そこは「電脳幻想郷・長岡」の中でも、彼女が一度も訪れたことのない場所のようだった。無限に広がる草原。遠くには幻想的な山々。そして頭上には、無数の星々が瞬いている。

「ここは…?」

リリアが困惑していると、突如として彼女の前に一筋の光が現れた。その光は次第に膨らみ、人型の姿を形作っていく。

光が消えると、そこには長い白髪と杖を持った老人の姿があった。その姿は、まるでリリアの記憶にある、ロシアの昔話に出てくる賢者のようだった。

「よく来たな、リリア・ペトロワよ」

老人の声は、不思議と懐かしさを感じさせるものだった。

「あなたは…誰なんです?」

リリアは恐る恐る尋ねた。

老人は穏やかに微笑んだ。

「私は、この世界の守護者だ。お前が無意識のうちに、このシステムの中に組み込んだ存在でもある」

リリアは目を見開いた。確かに、彼女は「電脳幻想郷・長岡」にAIによる自動修復システムを組み込んでいた。しかし、まさかそれがこのような形で具現化されるとは…

「守護者…私は、山田さんに意識を閉じ込められてしまったんです。このままじゃ…」

老人は杖を軽く地面に突いた。するとリリアの周りの風景が変化し、長岡市の街並みが浮かび上がった。そこでは、人々が困惑した様子でさまよっている。

「見るがいい。山田たちの野望により、多くの人々の意識が今、この世界に閉じ込められつつある」

リリアは愕然とした。これは彼女が最も恐れていた事態だった。

「私…私がこのシステムを作ったばかりに…」

老人は優しくリリアの肩に手を置いた。

「自分を責めるな。お前の意図は純粋だった。しかし今、この世界を救うのはお前しかいないのだ」

「でも、どうすれば…」

「お前の中に眠る力を呼び覚ますのだ。お前のルーツ、日本とロシアの血が交わる中に、この世界を救う鍵がある」

老人の言葉に、リリアは我に返った。そうだ。彼女はこの世界の創造者なのだ。ここで諦めるわけにはいかない。

「分かりました。私に何ができるか、教えてください」

リリアの瞳に決意の光が宿った。老人は満足げに頷いた。

「よく聞け、リリア。これから私が語ることが、この世界を、そして現実世界を救う鍵となるのだ…」

こうして、リリアの真の冒険が始まろうとしていた。彼女の前には、自身が作り出した世界を救い、そして現実世界との均衡を取り戻すという、壮大な使命が待ち受けている。

果たして、リリアは自身の内なる力を呼び覚まし、この危機を乗り越えることができるのか。そして、彼女の創り出した「電脳幻想郷・長岡」の真の姿とは…?

(続く)